目を瞬くと二十五歳で名古屋のホテルにいた。タール5ミリの黄色いメビウスを吸っていて、別の女と一緒にベッドで横になっていた。そのタバコはシトラスの味が入っていて美味しかった。タバコの煙と疲れのお陰で目はまだ霞んでいても携帯を見てレネからのラインを読めた。「どこ???なんで帰ってこない???」というラインを読んで「クソ」と言っちゃった。隣りにいる「菜々子」と言う若い女が「んん〜、おはようー、ビッキ。なんでクソといったのかしら」と言った。「気にしないでよ。でも、もうすぐ行かないといかん、レネは心配しているから」と答えた。菜々子はあたしの膝に頭を置いてあたしの顔に手をやって「いつ離婚するのかしら、その女と」と聞いた。「心配するな。いいタイミングを待っているだけさ」と答えた。菜々子が何か言う前に、吸っていたタバコをそのまま彼女の唇に押し当てた。菜々子の初めてのタバコはあたしのやつだった。あとは彼女にとって、あたしは初めてのレズビアン経験であり、初めてのトランスの相手であり、初めての浮気相手でもあった。咳き込みながらも『美味しいなぁ〜』と言った。
菜々子は「ビッキが帰る前に喫茶店いかない?お腹空いているから」と言った。「まあ、いいよ」と簡単に答えた。菜々子はまだ貧乏な大学生であたしは最近就職したからいつも奢ってあげる。喫茶店は安いから問題では無いけど「彼女があたしを好きなのは、心なのか、体なのか、それとも金のお陰なのか」と思った。菜々子は「あたしたちの家の近くの喫茶店行こうか」と聞いたけど心配した。あたしたちの家は互いに近かったけど一緒に行けばレネにバレるかもしれない。「まぁ〜、良いけど、新しい場所のほうが良いんじゃない?栄にはおしゃれな喫茶かカフェが絶対にあるから」と聞いた。菜々子は悲しそうな顔をして「なんで?いつもその喫茶店が大好きだって、バレたくないの」と聞いた。「それもあるけど、」と言っていて話を遮られた。「離婚してほしいよ、離婚したら普通の恋人になれるから。なりたいよ」と聞いた。その犬っぽい悲しそうな顔を断ることができなくて「じゃあ、今日やるわ、レネに言うわ」と言った。
レネへの告白は期待より酷かった。窓とグラスが砕かれたし、近所の皆さんはあたしたちの声を聞いた。
「レネ、離婚したいよ」
「はぁ、なにそれ?」
「冗談じゃないよ、まだ一緒にいたくないよ」
「え?どういうことなの」
「もう違う人を愛しているよ、別々の人生になってほしい、あたしたち」
「え、待って待って、浮気している?」
「あたしを犯したよ!覚えてないの?あなたと一緒にいたら安全な感じじゃない」
バキバキ
「何年前だったよ!謝ったよ!許したよ!」
ガシャーン
「許されてもそういうひどいことやったら地獄に行くよ!地獄へ行け!」
バク
「浮気もそうだよ!一緒にいたくないなら言え!なんで言わなかった?!」
互いに手から血が出ていた。誰も何も言っていなくて暫く考えていた。血と涙が床に混ざって溜まった。その溜まりを見て「白いゴミだな」と思った。レネは刃みたいに無言を切って「なんで許したの」と聞いた。答えはなかった。なんでかわからなかった。「許さないほうが良かった。ごめんなさい。その時に別れれば良かった。今、日本にいてあたしのない将来がここにはない。アメリカに帰ってください」とお願いした。レネは涙が出て「どうやって帰るべき?自分のお金はなくて家族もなくて友達もいない」と答えた。あたしは「わからんよ。でも、これ続けない」と言った。
「誰、その違う人」
「菜々子と言う女、あたしと同じの大学に通っている」
「なんでアタイより良い人なの?アタイより優しい、アタイよりきれい、何が良い」
「違うよ、問題は今ではなくて過去だよ、あなたと一緒にいたら過去から続けない」
「アタイは変わったでしょう?あなたのために変わったでしょう」
「変わらせてごめん、その時に別れれば良かった」
「友達になれないんでしょう?」
「いや、無理、あたしたちの全部、忘れたいから、無理だ」
「そうか」
「そうよ」
レネはグラスを取った。ひるんだけど、ただ水をひと口飲んだだけだった。グラスを置いたとき、それは血痕で覆われていた。あたしは冷蔵庫の上にある救急箱を取って彼女の手を包帯で巻いた。
「アタイのこと、愛していないの?」
「それは、まだわからん」
「アタイの人生、あなたのため、全部変えてあげたよ、あなたのない人生はない」
「ごめんなさい」
左手を巻くことが終わって右手に進んだ。
「しょうがないかな」
「しょうがないよ、どちらのせいでもない、過去のあたしたちのせいだ」
「なんで「過去のあたしタチ」って?過去のビッキはなんの悪いことをした?
今浮気しているんじゃない?」
「そうだね、まぁ、今のあたしのせいと過去のあなたのせいだ」
「死ねばいいかな」
「嫌だ、怖いこと言わないでください、あなた大丈夫だから」
彼女の両手を巻いて、あたしの方に進んだ。
「死ぬことはだめだったらどうすれば良い?」
「わからん。でも、大丈夫だよ、それわかっている」